hometown
「あの影達、模倣しているというならば……乱暴な扱いも模倣されるのでは?」
駆けつけたバルタン・ノーヴェは影達の受けた行為も模倣される危険性を示唆する。
というのも、子供達を模倣して生まれているのならば、受けた行為も模倣される可能性もある。
そのため、暴力的な扱いは控えよう、という流れになる。
「で、おやつを振る舞う屋台ってわけなんやね」
停留所に作られた小さな屋台。
そこで影達に渡されるのは、さまざまな食べ物。
わたあめやクレープといった甘いおやつ。
フランクフルトや串刺し唐揚げ。
たこやきやお好み焼きなど、様々な食事が配られていた。
そしてその上で、彼女は食事を配った後にゲートの先へ影を追いやる。
ここで食べずに、ゲートの先で食べるように指示を出すことでうまく追い込んでいた。
***
「これで全部だな」
整列作業をしていたフェルゼンが最後の1人をゲートの先へ追いやる。
バルタンとオスカーも影が戻ってこないことを確認しつつ、片付けを開始した。
片付け作業の合間にも、バルタンの情報収集は止まらない。
フェルゼンがヴィル・アルミュールに視線を向けた時、嫌そうな顔をしているのを彼女は忘れてはいない。
「そういえば、ヴィル・アルミュールはフェルゼン殿になにか関係があるのデスカ?」
「あー、それを俺に聞くんやね? まあええけど」
小さく笑ったオスカー。
本来なら本人に聞くべきだが、語りたがらないだろうからと彼が語ってくれた。
学業専門都市『ヴィル・アルミュール』。
そこは、ベルトア、オスカー、フェルゼンの故郷。
フェルゼンが目をそらすのは、幼い頃の虐待が原因とも。
「先生のおかげで助かってはいるけどね。やはり、心の傷とはおそろしいものだ」
「先生……?」
「ああ、司令官……エルドレット司令官のことやね。家庭教師やったんやて」
「ほー……」
ふと、バルタンは思い出す。
マリネロの街で出会った謎の男――ルナールもそう呼んでいたことを。
「まあ、私の弟だからね。ルナは」
「……ハッ!? 確かに似ている……!?」
フェルゼン・ガグ・ヴェレットとエレティック・リュゼ・ルナール。
2人の関係性もここで明らかになるのだった。
brain conference
「……で、どうするよ」
司令官室の更に奥。
調査人が知ることの無い、司令官システムを担う中枢にて。
以上4名が司令官システム内で会議を行っていた。
と言っても彼らは全員、脳だけしかないので言葉を発することはない。
擬似的に信号を送り、それを『言葉』とするだけだ。
どうする、と言葉を発したエルドレットも猟兵に頼みたいことだらけで。
故郷の話が出たマリアネラも頭を抱えていた。
『そういや、あの子はどうなったんだ?』
ふと、あることを思い出したエスクロが発言する。
あの子――異世界の少女、アルムはどうなったのか、と。
『確か、ジャック君が一緒についてるんだっけ?』
『いいや。記憶喪失だからって、彼とは距離を取ってたよ。カメラで確認した』
『あれ、そうだったんですか? 私、てっきり一緒にいると思ってました』
『……じゃあ、今アルムちゃんを見張ってるのって誰?』
「……ん??」
『……おやぁ??』
『……あれ??』
ナターシャ曰く、ジャックはアルムと一緒にはいない。
けれど彼女は異世界からの渡航者なので、見張っていなければならない。
そして彼女は元の世界では『脱走癖を持つ王女』の情報をジャックからもらっている。
……では、ここで問題。
今、誰が彼女の近くにいるのだろうか?
「ちょっ、ナターシャ! カメラ繋げ!」
『今繋いでるから待ってろ!』
急いでアルムを保護している部屋にカメラを繋げたシステム。
しかしそこに映し出されていたのは、無人の部屋。
誰もいない広々としている部屋のテーブルには1枚のメモが置いてあるだけだ。
『フェル兄さん、フェルにいさーーん!?』
『イグちゃんーー!! ライーー!! 応答しろぉーーー!!』
慌てふためくマリアネラとエスクロは自らの血縁者に連絡を入れて。
「あー、どうしよ。リヒとミルに怒られる未来が見えちった」
『まあそのときは俺も頭下げるさ。怒られるのは身体のあるお前だけど』
「うげぇ。なんで俺だけ身体あるんだよぉ……」
エルドレットとナターシャはこの後に起こるであろう燦斗《エーリッヒ》とのやり取りに頭を抱える。
それからしばらくして、ヴォルフもその情報を聞きつけることとなり。
諜報部隊『オルドヌング』に一つの命令が下りることとなった。
これは、猟兵達の秘密の物語。
記録と記憶に残るだけの、小さな物語。
シークレット・テイル