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海.png

wait and see

「さて、私がやるべきことはこれでよしと」

マリネロの海岸、ざあざあと打ち付ける波を眺めるルナール

周囲には誰もおらず、ただ1人でマリネロの海岸に来ているようだ。

彼は自分がやるべきことを既に終えたというように、座れそうな岩の上に座っていた。

「それにしても、エーリッヒ殿も面白い人達を連れてくる」

「もう少し彼らと会話してみたかったが、さて、あちらからの接触はあるのだろうか」

「……いや、接触はなくともいい。あの言葉さえ先生に渡してくれれば……」

狐面を少しだけ手でいじりながら、先のことを考えている様子のルナール。

これまでのことを誰かから聞いているのだろう、これから先のことを考えていた。

けれど、そんな彼の考えはすぐに妨げられてしまう。

街のほうが騒がしくなってきたからだ。

「……また、いなくなったか」

はあ、とため息をついて、街の方を見据えた彼の目に飛び込んできたのは……街の人々。

彼らは何かを探すように海岸に来ており、ルナールよりも辺りを見渡していた。

「教授! うちの娘見てないか!」

「うちの息子と一緒に出掛けたっきり、帰ってきてないんだ!」

どうやらやってきた街の人々曰く、女の子と男の子が1人ずつ行方不明となったそうだ。

前日から出掛けているそうだが、連絡もなく帰ってきていない。

いつもならばどちらかの家から連絡が来るはずなのだが、そのどちらからも連絡はなく。

事件に巻き込まれたのではないかと心配して、親が飛び出してきたという形だ。

もう一度、ルナールはため息をついた。

『また起きたのか』

なんて言葉をぐっと飲み込んで、彼らに情報提供を行った。

「さあ、見てないね。少なくともこちらには来ていないよ」

その言葉を聞いた街の人々は、それなら次の場所を探そうと足早に海岸を去った。

子供たちの安否を確認するのが先だというように。

「ゲートは強制的に閉じてもらったはずだが、まだいなくなる、か……」

対するルナールは何かを思案して、別のアプローチで子供たちを探すことにしたようだ。

 

自分が考えつく限りの手法を全て閉ざしておいたはずだが、まだ続いている。

​しかも執拗に、この街の子供たちを狙う。

ならば、まだなにかの要因がどこかにあるはず。

だが、それを探るにはルナール1人では難しい。

「……どうしようかな」

最後のため息、ひとつ。

マリネロの空に溶けて消えた。

宇宙船の内部

there's a lot to do

「……看過できねェことが起きまくってるな」

司令官エルドレット補佐ヴォルフが司令官室で会議を行う。

これまでに起こった出来事を全て精査するために、書類を一気に広げて。

侵略者《インベーダー》による侵略事件。

異世界人ジャック・アルファードのゲート不法渡航。

異世界人アルム・アルファードが降りてきたこと。

司令官になすりつけられたゲートの情報。

マリネロの街で起きている子供達の失踪事件。

諜報部隊「オルドヌング」副リーダー・ゲラルトの更迭。

……などなど。

様々な出来事が起き、猟兵達に絡みついている。

そこで、今一度ここでおさらいしておこうというのがエルドレットの考えだった。

「とは言え、《預言者《プロフェータ》》で見えてないのもあるんだよなぁ」

「見えてねェ……だと? それ、不調じゃないだろうな?」

「んなわけあるかい。俺のコントラ・ソールはパーペキだからよ」

ふふん、と鼻を高くする様子のエルドレット。

自分自身の能力を過信しているような様子だが、そんな彼に向けてヴォルフは大きくため息をつく。

こんなのが司令官か……と言うのを堪えて、ツッコミを入れた。

「……パーペキって言葉は古いぞ、159歳」

「ウソだろ、現役だと思ってたわ」

現役だよねぇ!? と虚空の誰かに語るエルドレット。

その言葉に反応するように、以下の文字がいくつものウィンドウとなって現れた。

現役じゃないですね。カールを見習ってください。

――Alenhainz nier Walth

現役だと思ったのは何故ですか? 兄さんが隣にいたのに……。

――Marianela Velet

逆に何故現役だと思ったんだ……?

――Adler Sage

大丈夫? 脳みそだけ100年前に置いてきてない?

――Escroc Chercheur

​「うっそでしょ!? そんなに古いの、これ!?」

「諦めろドレット。全員、お前より若いんだからさ」

「えええ~~~!?」

司令官室にこだまするエルドレットの嘆きの声。

​ちゃんとした会議の中、あまりのカルチャーショックが襲いかかっていたようだ……。

これは、猟兵達の秘密の物語。​

​記録と記憶に残るだけの、小さな物語。

​シークレット・テイル

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