


I hear voices
大研究室前。
体力も危うく尽きかけたところで、バルタン・ノーヴェの活躍により救出された。
彼女は猟兵の持つユーベルコードを使い、己を盾に変化させてジャックを守ってくれたのだ。
「にしても、マジでうるっせえ……」
「大丈夫デスカ? 一旦、休憩などは……」
「いや、いい。体力だけが自慢なんでな」
大きく息を吐いて、呼吸をもう一度整えるジャック。
モルセーゴの数は順調に減っており、増える様子がないことから
ここを切り抜ければ終わることはわかっていた。
なので休むことなく、自分が立ち回れば良い。そこまで考えている。
モルセーゴ達の言葉は、いくつも並ぶ。
『帰ってきて』『許さない』『謝れ』『待っている』
『助けて』『怖い』『帰ろう』『一緒に来て』『可哀想』
まるでジャックを連れ戻したいかのような言葉に、ジャックは眉を顰める。
でも、彼らだって知っているはずだ。
自分が今、ここにいる理由を。
ベルトアの書いた論文書籍を守れという任務に従っているだけだと。
「……アイツが、俺を邪魔しているというのか……」
小さく呟いたジャックの声には、怒りが混じっているようにも聞こえた。


master of voice
一方で、ユーノ・フォンベルジュによる避難活動が続いていた。
彼がモルセーゴの群れを討伐してくれたことにより、研究員達の退路はいくつも作られ
安全な経路で避難してもらえている。
あとはモルセーゴを討伐するだけなのだが、そのさなかに声が聞こえてきた。
『邪魔されちゃ困るんだよねぇ、ホント』
「誰だ!!」
ユーノの声に対し、声の主は自分を神様だと言った。
エルグランデとは違う、また別の世界の神様。
ゲートをくぐり抜けたその先、数多の異世界の中の一つの世界を作った神だと。
エルグランデという世界はその世界にとっては驚異でしか無く、
今のうちに滅ぼさなければ危険であると判断した。
だから、モルセーゴ達を使って滅ぼす。それだけだと声の主は言う。
けれどユーノは知っている。
エルグランデ、そしてセクレト機関が驚異となることは絶対にないと。
声を大きく上げたユーノはモルセーゴの群れを蹴散らして、一時的な平穏を作る。
フェルゼンはモルセーゴに見つからぬように隠れていたが、ユーノの活躍に拍手をしていた。
「しかし、今の声は……アマベル・オル・トライドールの声、か?」
「アマベル……?」
「うむ。30年前の研究で行方不明になった男だ」
「え、待ってください。30年前って……」
ユーノの頭に浮かぶ、30年前の研究。
それは、ベルトア・ウル・アビスリンクが行方不明になったものと同じなのだとフェルゼンは告げた。

これは、猟兵達の秘密の物語。
記録と記憶に残るだけの、小さな物語。
シークレット・テイル