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I am always greedy

「……兄貴の脳は、存在していない」

「でも、私たちと同じ立場にある」

司令官システムの中で、スヴェンザビーネがある事実を受け入れ調査を始めていた。

ある事実――アステリの脳が司令官システム管理室には存在していないこと。

本来であれば、厳重な管理をされているはずなのに。

司令官システムという基盤に、どうやって潜り込んだのか。

「お義兄さんはどんなコントラ・ソールを持っていたの?」

「《解答者《アンサー》》は確実に持っている。が……それ以外は不明だ」

「私達と実際に会ったのは、フェルゼンとキーゼルが生まれた時ぐらいだものね」

考える。考える。考える。考える。

どうやって基盤に潜り込んだか。

どうやって司令官システムだと誤認させたか。

どうやって自分達と同じ立ち位置にいたのか。

どうやって。どうやって。どうやって?

『人間』である限りは、どうあがいたって無理だ。

司令官システムはその特異性から厳重な管理がされている。

一般人が入れる隙などどこにもない。

だからこそ、アステリの存在は異質で。

それでいて特別感があって……。

「あんまり考えすぎよ、スヴェン」

ザビーネがスヴェンの思考を止める。

そうやって考えすぎて答えに遠回りになるのは、彼の悪い癖。

少し落ち着いて、と彼女は促す。

「……すまない。これがあるから、オレは世界の敵と認識されたのかもな」

「知りたがりは強欲の証、てこと?」

「家にあった日記にも書いていただろう。『外へ求めた強欲』と」

「……そうね。そうだったわね」

『外へ求めた強欲』。

ミメーシスの存在を引き入れる原因となったスヴェンの大きな罪。

彼が外宇宙を知ったが故に始まってしまった、全ての根底。

今もずっと、彼は悔やんでいる。

自分が外を知ったせいで、息子がああなってしまったのだから。

自分が外を知ったせいで、世界が今危機に晒されているのだから。

「……だからこそ、オレは……」

スヴェンは決心している。

この襲撃を全て収めることが出来るのは自分しかいないと。

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My heart hurts

「……っ……」

「エミさん、どしたん? 頭痛いんか?」

未だ懲罰房の中にいる、エーミールメルヒオールの2人。

コントラ・ソールによって作られた呪詛は、今もなおエーミールを蝕んでいる。

 

外せば記憶を失い、残せば痛み続け。

外せばエルドレットエミーリアへの怒りを昇華し。

残せば永遠に2人への怒りを叩きつけるように全てを破壊する。

兄である燦斗を捨てた男と、その男が作り出したコピーチルドレン。

拭えない事実が彼の怒りを増長し、呪詛をより濃く作動させる。

まさに彼は、世界の敵として認定されてしまっている。

『怒りに身を任せた破壊者』。

それがエルグランデから見た、エーミールという男。

「……あのな、エミさん。俺、昔から思っててんけど……」

そんな中で、メルヒオールが口を開く。

少しでも、エーミールの心が軽くなってほしいという願いから。

これは己の『正義』から展開する、独自の解釈だと。

「親父は、好きで兄貴を捨てたんやないと思うよ」

「……それ、は……」

「なんか、理由があったんちゃうかなって。俺にも、エミさんにも言えへんことが」

「…………」

燦斗もエルドレットも、自分達より先に生まれた。

先に生まれたからこそ、『何か』が起こった。

それを知らないから、エーミールは怒りに呑まれて恨んでいる。

もし、過去を覗き見ることが出来るのなら。

今からでも、事情を知ることが出来るのなら。

事情を知って、その怒りを軽くして……。

――少しでも、エルドレットに力を貸すことが出来るようになって欲しい。

​それが、メルヒオールの願いでもあった。

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Lazy self

私は、怠惰。

​生きることをやめてしまった、怠惰。

世界的に言えば『生を捨てた怠惰の者』。

でも、そうなるのも仕方ないでしょう?

​《無尽蔵の生命《アンフィニ》》なんて力を得た故に、生きる理由を失った。​

《無尽蔵の生命《アンフィニ》》​なんて力を得た故に、死ぬことが許されなくなった。

 

誰もが生きて、誰もが死ぬこの世界で。

私はたった1人、永遠に、残り続けなければならない。

私はたった1人、世界の生き証人にならなければならない。

誰も私と共にいられない。誰も私に追いつけない。

それならいっそ、すべてを捨てて怠惰に過ごしたほうがいい。

誰も私を殺せない。誰も私を救えない。

それなら、世界に罪を与えられたとしても。

そうして生きるほうが、遥かに楽だ。

例え今、ミメーシスの襲来があったとして。

彼らが私を殺すことは出来ない。

ミメーシスはただの『模倣者』なのだから、私は殺せない。

……いや。違う。

奴らの目的は《無尽蔵の生命《アンフィニ》》そのものか。

無限に生きて、死ぬことのない命。

そりゃあ、何も知らない宇宙人共から見れば、喉から手が出るほどに欲しがるか。

だからこそ、世界は私に罪を被せた。

《無尽蔵の生命《アンフィニ》》を持って、生まれた者。

世界を仇なす者を呼び寄せる存在だからと!

確かに、コピーチルドレンの研究を持ち帰れば擬似的には手に入れられるだろう。

だけど彼らに、この力を扱えるとは思えない。

『ある事象』と組み合わせないと、この力は発揮されないのだから。

滑稽。あまりにも滑稽!

その事実がまだあちらに渡っていないのが幸いした。

《無尽蔵の生命《アンフィニ》》を手に入れただけでは、無限の命は手に入らない。

……ああ、そうか。

母は、このことを予見していたのか。

こうなる未来を、知っていたのか。

だから、母は私のためを思って、あんなことをしたのか。

だから、母は私の未来のために、あんなことをしたのか。

だから、母は私に刃を…………。

……よしましょう、この話は。

エーミールも、エミーリアも、エリーアスも知らない話なんて。

エルドレットとエーリッヒにしか、知らない過去の話なんて。

真実なんてものは、永遠に闇の中へ葬り去るのが一番なんですよ。

​目の前の【あなた】がそう感じるかは、わかりませんけれど。

私は少なくとも、この事実は知らなくていいと思います。

これが例え、エーミールの怒りを作る原因だとしても。

これが例え、ミメーシスを呼ぶ理由だとしても。

彼らが知る必要は、ない。

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How it works

「アルム様、状況はどうなっていますか?」

「あ、ベルディさん。空からとんでもねーのがやってきます!」

「空からとんでもねーの。了解しました」

「待って今のでわかるの???」

マリネロの街へ到着したベルディに対し、超簡潔に説明したアルム

幼い頃からこうやってやり取りしているからか、すぐに情報伝達出来るのだ。

ミメーシスの存在も『とんでもねーヤツ』で伝わる辺りがこれまた凄い。

「けど、お前さんがいてもミメーシスを倒すには……」

「心得ています。レティシエルも、私1人では無理だと」

ベルディ曰く、ミメーシスの存在は自分だけでは到底無理だという。

しかし彼はレティシエルアマベルと共に、作戦を練っていた。

大量に降り注ぐであろう侵略者、それを放り込むための『ゴミ箱』。

その中に一部を誘導して、分割対処を取ればいいと。

​「ゴミ箱……って……」

「ベルディさん、そんなの何処に……」

「あったでしょう? 今はもう、いつの間にか消えましたが」

「……空の大穴か!!」

思わず空を見上げたエルドレット。

今は少しだけ曇り空を見せる空だが、大穴は消えている。

レティシエルいわく、あの大穴はゲートに似ている何も吸い込まないゴミ箱。

その先に繋がっている場所はなく、ただ空虚に食われるだけ。

消えてもなお長らく調査を続けた結果、ある新しい事実がわかったという。

あの大穴を作り出した人物が、世界の敵に認定された者の中にいる。

その人物は『自らがゲートを作れる』ことを知らない。

そして……。

「その人物の生命は、無限であり無限ではないと告げていました」

「……それって」

エルドレットには心当たりがあった。

世界の敵に認定され、無限であり、無限ではない生命を持つ者。

​該当するだけでも、『2人』……。

これは、猟兵達の秘密の物語。​

​記録と記憶に残るだけの、小さな物語。

​シークレット・テイル

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