to worry
「お前ってホント、食細いよなァ」
「何を言うか。お前が食い過ぎなだけだろう?」
「俺は至って普通の健康的な食事だよ。なんだよお前のその食事、ディストピアかよ」
「せ……司令官に言ってくれないか。健康診断の結果がこれだからな」
ある日のセクレト機関の食堂にて、フェルゼンとヴォルフは食事を取っている。
ヴォルフは日替わり定食を無心に食べながら。
フェルゼンは管理栄養食のエナジーゼリーを口に運びながら。
それぞれの食事の合間には他愛のない会話が繰り広げられていた。
「ちなみに何の数値がダメだったんだよ?」
「貧血気味故にソール物質が低減していると指摘を受けてな。肉を食えば改善するらしいが……」
「その結果がエナジーゼリーか。旨い?」
「……オススメはしないとだけ言っておこう」
ソール物質とは、エルグランデで生まれた者が持つコントラ・ソールを使うための物質。
未だに謎も多いが、この物質があることでコントラ・ソールが安定すると研究結果が出ている。
しかしその反面、ソール物質が0になればエルグランデの空気に耐えきれず死に至ると噂されている。
その重要な物質がフェルゼンの体内には少ない。
これは貧血に由来するものだと本人は言うが、確たる証拠は何処にもなく。
「お前ってルナールと同じで肉嫌いだもんなァ。生姜焼き食う?」
「いらん。あとルナは双子の弟だから嫌いなものはほぼ同じだ」
「でもルナールが嫌いなウナギは食うじゃん、お前」
「アレは別。そもそも他人の金で食うから旨い」
「お前またドレットに食わせてもらったな? ずるいぞ」
「ふふん」
ちょっぴり鼻高々になるフェルゼン。
エルドレットから奢ってもらうというのはなかなかに難しいことなのだが、彼は簡単にやってのける。
そこがヴォルフとの違いだと言いたげに、エナジーゼリーをすべて食べ終える。
「お先に失礼。今日は定例会議なのだろう?」
「ああ。そっちは?」
「エーリッヒ殿に頼まれて、チルドレン達に教鞭をとることになってな」
「おォう。じゃあしばらくは連絡を控えたほうが良さそうだな」
「うむ、そうしてくれるとありがたい」
ゼリーの入っていた容器を片付けつつ、フェルゼンは時計を見る。
そろそろ時間だと小さく呟いた彼はゴミをゴミ箱にしっかりと捨ててから、食堂をあとにする。
まだまだ食べ終われないヴォルフは、ライトブルーの色鮮やかな髪をその目で追いかけていた。
これは、猟兵達の秘密の物語。
記録と記憶に残るだけの、小さな物語。
シークレット・テイル