
strange occurrence
ミメーシスの襲来の知らせが響き渡る頃。
セクレト機関はいつも以上に調査人や研究員達にあふれていた。
侵略者《インベーダー》がこの世界に来ることは日常茶飯事。
故に緊急対応マニュアルに従い、それぞれの持ち場につくことになる。
ただし今回の侵略者《インベーダー》・ミメーシスについては、情報がまだなにもない。
逐一集められた情報を司令官システムに送ることで、相手に対しての決定打を生み出すことが出来る。
…………はずだった。
「おいっ! コントラ・ソールが使えねえぞ!?」
「こっちもだ! くそっ、どうなっている!?」
「司令官システムからの指示は?!」
「ダメです、繋がりません!」
セクレト機関内部で広がる『コントラ・ソールが使えない』の声。
それに伴い、司令官システムからの情報が届けられなくなっているとの声も聞こえてくる。
一部の研究員からはコントラ・ソールによる保護を失っているとの声も。
これまで人々を支えてきた力の消失。
それによって起こる混乱は、何もセクレト機関内だけではなかった。
この現象は、エルグランデという世界全てで起こっている。
その事実が発覚したのは、この騒動が起こってすぐのことだった。
……そして、その騒動はすぐに収まりを見せた。
人々の声が、小さくなって。



changing for the worse
「嘘だろ、確認できるコントラ・ソール全部動いてねェぞ!?」
「……マジか。こいつぁ……」
同時刻の司令官室。
既に事態はこちらにも伝わっているようで、エルドレットとヴォルフすら混乱していた。
とはいえ、エルドレットは《預言者《プロフェータ》》による
未来予知があったためある程度の予測は立てられていたが……今回は、全くの予想外。
『コントラ・ソールが使えなくなる』という可能性は既に見えていた。
だが戦闘が必要になるタイミングで使えなくなる、という未来までは見えていない。
裏切り者――この場合はフェルゼンが何かを行った結果が今、ということだろう。
「だけど、司令官システムに繋がらなくなるまでは想定外だったな」
「ドレット、どうするんだよコレ!?」
「落ち着けって。しっかり繋がってるのは俺とスーだけっぽいな、これ」
コントラ・ソールが使えないという状態は思った以上に深刻だ。
簡単に情報共有を行う司令官システムとの繋がりが絶たれたこともそうだが、
戦闘員の戦闘力が激減してしまっているのも問題となる。
侵略者《インベーダー》・ミメーシスとの戦いを前にこの状態は非常に危険なものだ。
そう思えば、猟兵達と縁を作っておいてよかった、とエルドレットは小さく呟く。
「…………」
しかしエルドレットには、もう1つある懸念点があった。
コントラ・ソールという力はこのエルグランデにおいては人々と密接しているもの。
ソール物質と呼ばれるエネルギーを身体に蓄積して、放出することで力を得る。
その力はこの物質なしでは利用することは叶わない。
けれどその代償にエルグランデの人々はソール物質がなければ生きられない身体になってしまった。
そして、現在。
世界に蓄積されていたソール物質が減少し続けていると報告がある。
これは人々が使った程度で減るものではないし、侵略者《インベーダー》に取られるようなものでもない。
誰かが意図的に、ソール物質そのものを利用していると見るしかないだろう。
だが、そうなると。
ソール物質を吸収できなくなったエルグランデの人々は、どうなるか?
「…………あ……れ?」
「ヴォルフ!!」
手の痺れ。最初に出てきた症状はそれで。
次に物事がうまく視認できなくなって。
浅く、早い呼吸を繰り返す。
酸素は足りているのに、肺が何度も繰り返し動く。
だけど脳が繰り返し警告している。
『ソール物質が足りない』と。
生きるために必要な構成要素が足りないのだと。
人々の声が小さくなったのは、全員がソール物質低減症状を受けてのこと。
今やこのエルグランデでまともに立つことが出来るのは……。
そして、猟兵達だけとなる。

これは、猟兵達の秘密の物語。
記録と記憶に残るだけの、小さな物語。
シークレット・テイル