in the meantime
「俺が諸事情休眠に入っている間、絶賛大変なことになっていた」
眠りから目覚めた司令官エルドレットは、ぼりぼりと頭をかいて悩んだ。
自分がモルセーゴ強襲事件の手引をしたゲート作成犯だと言われていたり。
マリネロの漁港に落ちてきたという女性・アルムのことだったり。
寝起きにありとあらゆる情報が流れ込んでくるものだから、頭の中がこんがらがっていた。
「うーん、どうしたもんか。俺が寝てる間に俺が犯人になってるのはなんでだか」
「まさかとは思いますが父上、寝ぼけてゲート開いたとか無いです?」
「んなまさか。ここ数ヶ月、ゲートを開いた覚えはー……あー、1回だけはある」
「1回はあるんですか。まあおおよそジャックを呼んだ時のものでしょう?」
「バレてーら。まあ、理由はあってもそれ自体は隠さなくてもいいけどね」
ある事情――裏切り者の存在については彼らに伝えることが出来ないエルドレット。
ジャックを呼びつけたことも、それに起因するとは伝えられない。
それでもジャックを呼んだという事実だけは変わらないので、それについては否定することはなかった。
「おや、起きていたんですか、エルドレット」
「父上って呼べよミル~。起きてますぅ」
そこへ、司令官室へエーミールが入ってきた。
彼も元々は司令官補佐の立場だったため、権限は持ち合わせている。
そのためIDカードさえあれば、彼も司令官室へすんなりと入ることが出来るのだ。
「まだ寝ていると思いました。ああ、これ外回りの調査結果です」
「おや、お疲れ様。どうだった?」
「フェルゼンさんが薬の副作用でぶっ倒れたぐらいですかね。それ以外は特に何も」
「まーたあの薬使ったのか、ゼンのヤツ。止めとけって言ったのになあ」
ケラケラと笑うエルドレットと、調査結果の資料を読む燦斗。
フェルゼンとエーミールの調査結果には特別なことは記されておらず、異常なしの文字のみが残っていた。
それが逆に怖いのだがとつぶやきつつも、燦斗はエーミールに外の様子を伺う。
その合間にエルドレットはコントラ・ソール《預言者《プロフェータ》》が発動したのか、目を閉じた。
「……っ……!」
思わず、一瞬だけ息を止めてしまったエルドレット。
表情も芳しくないことから、良くない未来を見てしまったようだ。
見てはいけない。その未来を知ってはいけないと脳が警鐘を鳴らしても、
《預言者《プロフェータ》》の力が彼に未来を見せつける。
「父上」
涼やかで力強い燦斗の声が、エルドレットの耳に届く。
そのおかげで彼は自分を現実に引き戻すことに成功し、大きく深呼吸をして自分を落ち着けた。
……この時ほど、息子の声が手助けになった日はないと後に彼は語る。
「何を、見たんですか?」
燦斗の問いかけに対し、エルドレットの答えは一言だけ帰ってきた。
『セクレト機関に所属する誰かが猟兵達に牙を剥く』。
……その一言に、燦斗もエーミールも言葉を返すことは出来なかった。
これは、猟兵達の秘密の物語。
記録と記憶に残るだけの、小さな物語。
シークレット・テイル