


foundling
「……お、ゼンじゃないか」
「先生。……いえ、司令官」
「いいって。2人きりだからよ」
「むぅ。そうですか」
フェルゼンとエルドレットは機関内の廊下で対面する。
エルドレットは何も考えていないただの散歩を。
フェルゼンはたくさんの資料が入ったファイルを片手に別の資料室へと移動している最中だった。
彼らには「司令官」「研究員」の立場以外の間柄もあるのだろう、呼び方も普段とは違う。
エルドレットはフェルゼンを『ゼン』と呼び。
フェルゼンはエルドレットを『先生』と呼ぶ。
その呼び方からは誰もが先生と生徒の間柄であると確定することが出来るだろう。
「コーヒー奢るぜ? 休憩して行けよ」
「そうはいきませんよ。まだ、この後も資料をまとめなくてはならないので」
「つれないねぇ。高位研究員になってから、せっせと働きおって」
「両親にも見捨てられた私とルナを助けてくれた先生のために働いているだけですよ」
ゆるく微笑んだフェルゼンに対し、エルドレットは肩を竦める。
ここまでわからずやだったか、なんて言いたそうな表情だが……本当に口に出すことはなく。
「ところで、先生」
ふと、廊下を歩き続けたフェルゼンが足を止める。
月明かりだけが2人の顔を照らしている中で、フェルゼンが何かを言おうとした。
しかし、その言葉は止められてしまう。
エーミールの救難信号が緊急だった故に。
「悪い、ゼン。ミルが緊急事態のようだ」
「おや、そうですか。仕方ありません、エーミール殿を優先してください」
「すまん。またあとで話を聞くよ」
そう言うとエルドレットは通信回線を開き、エミーリアとメルヒオールに繋げその場を足早に去る。
その背中をフェルゼンは視線で追いかけるため、暫く立ち止まっていた。
「――ああ、そうだな。羨ましいな」
ただ一言だけを呟いて。
『彼』はその場を去っていった。

これは、猟兵達の秘密の物語。
記録と記憶に残るだけの、小さな物語。
シークレット・テイル