Forbidden book
「……アルムが何のためにここに来たか、か……」
ジャックは考える。
手紙の内容を読んだ後、アルムの『やるべきこと』が何かを考える。
いくつか思いつくことはあっても、それは元の世界でのことばかり。
この世界での『やるべきこと』については一切、何の情報も得られていなかった。
「あんな置き手紙のあとじゃ、尾行しづらいだろうからな」
なんて言って変装道具を用意してくれた秋月・那原。
鼻眼鏡にマスクというシンプルに不審者を作るだけの道具、ジャックは思わず鼻眼鏡の鼻をちぎる。
「情報が足りないし、彼女を追いかけて見る必要がありそうだよな」
提案をあげた日野・尚人は2人のやり取りを抑えつつ、アルムを尾行する。
彼女が向かった先に、必ず何かが見つかるのではないかと推測して。
尚人の推測は予想通り。
アルムは色々と右往左往しながらではあったが、その場所にたどり着いた。
ヴィル・アルミュールの住宅街エリアと小学部エリアの境目にある、とある邸宅。
3人が表札に視線を向けてみれば、書かれているのは『Abysslink』の文字。
どうやらアルムはアビスリンク家――ベルトアの実家に用があったようだ。
しかし中に入れないと知った彼女はどうすることも出来ず、一旦家から離れてしまった。
その隙に、3人はどうにか中へ入れないかと画策したところ……。
「お待ちしておりました。ベルトア様の使いの者」
そんな声をかけられて、中に入ることに成功した。
******
アビスリンク家に入ることが出来たのは、この家の執事長のおかげ。
その名はマルクス・ウル・トイフェル。長らくこの家に仕えているそうだ。
「ベルトア様からご連絡は頂いております。猟兵の皆様と、ジャック様」
「マジか……」
「まさかの執事さんと手紙のやり取り……」
ベルトアは箱庭世界から出ることは出来ない。
だが、ゲラルトを介せば手紙を送ることは出来る。
それは公認されているため、マルクスに手紙を届けるのも容易なのだろう。
そんな彼はベルトアから情報を聞きつけ、アルムの目的に推察を立ててくれていた。
マルクスが提唱したアルムの目的は――『アビスリンク家の赤い本』。
ベルトアが執筆した『ゲートと呪術の関係性について』と似た、プロテクトのかけられた本。
何人たりともその本の中身を読むことが出来ないが、それを狙っているかもしれないと。
「まあ、どう読むのかはちょっと気になりますが」
「確かに……開けられないんだよな」
「少年、もっと踏ん張ってみたらどうだ?」
「踏ん張って開けられたらプロテクトの意味ないんじゃないか!?」
「それもそうだな?? 少年、頭いいな!」
那原と尚人のやりとりもそこそこに、ふと、マルクスは隣の家にも行かなければとつぶやく。
草が生えすぎてるので抜いておかないとならないと。
それを手伝うといい出したのはジャック。
もう少しマルクスから情報を聞いておきたいというのと、身体を動かさないとそろそろ鈍る気がしたからだ。
「よかった、ヴェレット家の人々も喜んでくれそうです」
「……ヴェレット家……」
アビスリンク家の隣は、ヴェレット家――フェルゼンとルナールの実家。
現在入ることが許されるのはシステムに認められた者のみのため、外回りだけしか出来ない。
だが尚人は、もう一つのアルムの目的を提唱する。
アルムは、ヴェレット家にも行きたいんじゃないか? と。
これは、猟兵達の秘密の物語。
記録と記憶に残るだけの、小さな物語。
シークレット・テイル