Rebellion
「はじめまして、アルムさん」
「わあ……シカさんだ……!」
ジャックと縁のある猟兵エドワルダ・ウッドストックと顔合わせしたアルム。
彼女の顔は初めての獣人だからか、瞳の奥に煌めきを残していた。
更に彼女が呼んだ騎士団の面々もシカの獣人。
故に彼女のテンションは爆上げ。アビスリンク家の本を全て読み進めるほどになった。
******
「……ジャックさん。残りはもう、この本しかありませんわ」
「……っ」
残されたのは、鍵の模様がついた赤い本。
エドワルダはそれをジャックに見せて、指示を仰いだ。
状況を知らない者よりも、知る者が判断を下す方が良いからと。
ジャックは……悩んだ。
アルムが本当にこの本を開けるかもわからない。
開けたところで彼女の『やるべきこと』がわかるとは限らない。
そもそも、本当にここに彼女の『やるべきこと』があるのか?
色々な考えが交差して、ひっくり返って、また交差して。
ぐちゃぐちゃにかき混ぜられた思考をなんとか平らに戻して。
それから、彼は決意した。
「……見せよう。開かなかったら、その時はその時だ」
「そう……ですわね」
開かなければそれまで。それだけだ。
そう呟くと、ジャックはアルムに赤い本を手渡して……。
開いた。
こともなげに、簡単に鍵穴に鍵を差したように軽い音が鳴って。
糊付けされていたように動かなかったページが、ぱらりと開いて……。
「……開きましたか」
「……なんですか、これ……」
アルムに恐怖の表情が浮かぶ。
その手はページを捲り続けて、視線はゆらゆらと動いて。
だけど、もう見たくないという表情が大きくなっていた。
それを支えようとジャックが彼女の後ろに立ったが、彼もまた本の内容に目が行く。
そしてアルムと同じように、恐怖の表情を浮かべてしまった。
赤い本に書かれていたのは、世界の敵の一覧。
名前と顔写真がずらりと並んでいるだけの、まるでアルバムのようなもの。
けれど彼女達が恐怖の表情を浮かべていた理由は、別にあった。
その一覧の中には見知った顔がいくつか載っていたのだから。
エーリッヒ・アーベントロートとエーミール・アーベントロート。
そして今、側にいるマルクス・ウル・トイフェル。
彼女達を支えてくれる者達の名と顔が残っていた理由は、まだ解明されることはなく――。
Enemy
本が開いた同時刻。
バルタン・ノーヴェはエーミールと対峙していた。
彼がヴィル・アルミュールにいる。
その情報だけでは、彼が本物かどうかもわからなかったからだ。
けれど振り向いた彼のその目は、どす黒く染まっている。
まるで人に非ずと言わんばかりに。
いつも穏やかな表情で、優しい目を向ける彼の顔が変わるほどに。
「エーミール殿……その目は……」
「……気にしないでいただけますか、バルタンさん」
「し、しかし。休まれていたのでは?」
「……別に? こんなにも元気ですが、何か?」
「そ、それは……」
そうして、いくつかのやり取りをしている間に。
司令官システムのウィンドウ――エルドレットからの言葉が割って入って。
エーミールが『リベリオン・エネミー』となったとバルタンは知った。
それはあまりにも、タイミングが悪すぎた。
彼と対峙していない時なら、以降気を引き締めて注意することが出来た。
けれど、今は丁度出会って、会話をしてしまっている。
気を引き締めようにも、一瞬何が真実で、何が嘘なのかの判断がつけられなかった。
「エーミール殿……」
一歩、前に出て。
彼に声をかけようとしたその瞬間、バルタンの背後から小さな破裂音が鳴る。
それは銃声だと直ぐに判断がついた彼女は、身を翻して立ち位置を変えた。
「っ!?」
一瞬の回避。
だが、その僅かな時間がエーミールにとっては好機だった。
ヴィル・アルミュールの警報機が鳴る。
銃弾が使われたとアナウンスが鳴り響く。
音の位置を知った警備隊が駆けつけ……状況を知る。
バルタンただ1人が、何者かに銃撃を受けたことを。
これは、猟兵達の秘密の物語。
記録と記憶に残るだけの、小さな物語。
シークレット・テイル