


Prototype Ark
「あのさ、1つ思いついたんだけど」
ファムの村やマリネロの街を回る中、アマベルが声を上げた。
なんてことはない、安全な場所となり得るところがあるかもしれないと。
前提として『残っていれば』の話になるが。
――箱庭世界。
それは、アマベルを含んだ13人の研究者が中心となって作られた世界。
それは、いくつもの失敗が積み重なって出来た世界。
だとしたら、『テストケース』が存在しているのではないかと。
箱庭世界が作られることになった理由はただ1つ。
『エルグランデが大きな危機に直面したときの次なる安全圏の確保のため』。
ならば念入りに研究と調査を積み重ね、いくつもの世界が作られ廃棄されたはずだと。
その中にはソール物質も存在し、人々が十分な生活が出来る世界があってもおかしくないだろうと。
「ああ、なるほどな。確かにテストなしに本番なんて無茶だな」
「テスト走行なしにぶっつけ本番は結構大変すぎる」
今回の事件の手伝いにやってきたカショウ・ヘイスティングズと幕部・スイセイが納得した。
アマベルが『残っていれば』と言ったのは、廃棄にも等しいなら残ってない可能性があるからだ。
成功例だけが残れば良いという考え方だった場合、安全圏がないことになるが……。
「ってなると、この分野は俺より適任者がいるな!」
そう言ってエスクロはすぐさま司令官システムを繋ぎ、当時の研究者に事情を伝える。
エーリッヒ・アーベントロートとエーミール・アーベントロート。
箱庭世界の研究者であり、ソール物質低減症状に陥ってない《無尽蔵の生命《アンフィニ》》の持ち主達。
彼ら曰く、この未来にたどり着くことは予想はできなかった。
だが、何かあったときのため。そのために試作型世界『Ark』を残しておいたという。
Arkはソール物質に溢れた世界だが、致命的な欠陥が残る世界。
しかし今回のような緊急事態には使える世界なので、ここで住民達を保護することになる。
コントラ・ソールさえ使いすぎなければ、大丈夫。
人々にはそう伝えて、順繰りに救助が続けられていく……。

これは、猟兵達の秘密の物語。
記録と記憶に残るだけの、小さな物語。
シークレット・テイル