

early life
ヴィル・アルミュールのヴェレット邸。
響納・リズとスヴェンは2階にあるフェルゼンとキーゼルの部屋に訪れていた。
本が多く散らばった机と、そうでない机。
明確にどちらがフェルゼンの机なのかは明らかで、大人でも難しい本がいくつも積まれていた。
「こちらがフェルゼン様の机でしょうか?」
「そうだな。……エルドレット曰く、あの子は幼い頃は本をよく読んでいたそうだ」
物理学の本をパラパラと開いて読み進めるスヴェン。
子供ながらに大人でも難しい本を読んでいたためか、彼は物理学を専攻していたそうだ。
代わりにキーゼルは特化した学科はなく、あらゆる面で平均的に勉強していたと。
「……あら?」
ふと、本に積まれた中に見つかった手紙。
リズはそれを手に取ると、くるくると回して痕跡を確認する。
最近封をされたであろうシーリングスタンプ。
まだ劣化している様子がないことから、これは誰かがこの部屋においたものだと推察される。
スヴェンの許可を得て、中身を読み進めてみれば……それはフェルゼンからの手紙。
ミメーシスと呼ばれる存在に身体を奪われながらも、彼は必死に声を残してくれていた。
フェルゼンの手紙曰く、ミメーシスの目的はエルグランデの侵略。
『母』と呼ばれる存在をこの世界に呼び、すべてを手に入れるつもりなのだそうだ。
だが、『母』の存在がまだ定着できていない。
『母』を定着できずにいるから、だそうだ。
しかし既に『母』と呼ばれる存在を定着する肉体は選ばれている。
それが、エーミール・アーベントロート。
《無尽蔵の生命《アンフィニ》》の力を持ち、エルドレットへの怒りを持つ者。
その2つがあるだけで、『母』の存在は定着できるのだと。
その凶行を止める術を、フェルゼンはヴェレット邸のある場所に隠した。
スヴェンにしかわからないという、ある部屋に。
「……でも、どうやってあの場所に?」
「あの部屋はオレの部屋の本棚の裏から行けるからな。……探してみるのも手か」
そう呟いて、次の手紙――もとい、幼いフェルゼンの日記を読み進めていくリズとスヴェン。
そこに記載されていた内容は、彼が重瞳となった瞬間を決定づけたものだった……。

これは、猟兵達の秘密の物語。
記録と記憶に残るだけの、小さな物語。
シークレット・テイル