


consideration
「エーミール殿、もう少し右」
「えー、もう。なんで私があなたの指示で動かなきゃならないんですかぁ」
「ヴォルフが動けないからだ、仕方ないだろう? あ、行き過ぎ」
「もお~~~」
エーミールとフェルゼンはセクレト機関の外に出て、他にゲートがないかを探っていた。
今回の侵略者《インベーダー》・モルセーゴの使ったゲートはすべて
セクレト機関内に作られたものだったが、それ以外に無いかどうかを調べるために。
……とは言え2人だけの調査というのも少々危険がつきまとう。
エーミールのコントラ・ソール《賢者《ヴァイゼ》》の力である程度の危険予測は付くが、
突発的なトラブルなどにはどうしても弱いもので。
「あ、その辺り毒蛇いるから気をつけたまえよ」
「一言遅いんだよなァ!!」
今にも噛みつきそうな毒蛇をグラスナイフで叩き落とすエーミール。
フェルゼンの一言があってもなくても、ギリギリで回避できる辺りは流石の戦闘員といったところ。
この他にも樹木からのコントラ・ソール《突風《ラファール》》が飛んできたり、
野生のリスが持つコントラ・ソール《創造主《クリエイター》》での一撃が飛んできたりしたが、
それらも簡単に回避してみせた。
「なんか私にめちゃくちゃ不運来てるんですけどぉ!!」
「ははは、それもまたキミの特性だろう。選んでよかった」
「良くなぁい!!」
悲鳴を上げながらも、エーミールは少しずつ調査範囲を広げる。
後ろで控えているフェルゼンも同じように危険はあるのだが、彼もまた余裕で回避をしていた。
しかし、フェルゼンのその動きには少し、エーミールにも疑問が残る。
彼はただの研究員。戦闘員ほどの能力はなく、身体的にも自分に追いつけるはずはないのに、と。
コントラ・ソールによる身体能力の強化か、あるいは増幅薬でも使ったか。
……どちらにせよ、考察する余地はあるのだが……。
「エーミール殿、如何なされた?」
「……いえ、なんでもありません。あなたの身体能力が私と同じで、驚いてました」
「ああ、そのことか。それならこの薬のおかげだよ」
そう言って見せた薬のラベルには、実験秘薬と書かれている。
流石に2人きりで調査をするのに、自分が足手まといになる訳にはいかないからと
治験も兼ねて薬を服用しているようだ。
向上した体力と感覚は他の戦闘員と引けをとらないほどになるそうで。
「ただ、この薬には問題が1つあってね」
「問題?」
「この薬を服用して3時間後にだな」
「はい」
「陸酔いsぅおええええええええ」
「フェルゼンさぁん!!??」
……しばらく後、彼らの調査は終わった。
彼らの調査の結果、外には《ゲート》が作られた痕跡はなく、
モルセーゴは間違いなくセクレト機関のみを狙ったことが判明する。

これは、猟兵達の秘密の物語。
記録と記憶に残るだけの、小さな物語。
シークレット・テイル