past suffering
セクレト機関へと戻ったフェルゼン。
猟兵達と共に集めた影の情報をまとめ上げ、それらをアップロード。
司令官システムがいつでも閲覧できるようにしておいた。
次の指令が降りるまで休憩しようと彼は髪を解いて回復用ベッドに横たわる。
今日の仕事はこれで終わり。そう思っていた。
「……ぐ……っ」
ズキズキと痛む頭。
ぐるぐると回る視界。
チカチカと光る景色。
安心しきったその瞬間にやってきた頭痛は、フェルゼンの入眠を妨げる。
回復用ベッドから起き上がり、すぐさま自分の机の引き出しを開けて薬を飲もうとしたが……。
「っ……ない……!?」
いつも常備する薬の購入を忘れてしまっていたようで、引き出しの中は空だ。
あったとしても、薬の容器があるだけで薬そのものはもう無い。
痛みが酷くなって、立ってもいられなくなる。
せめて回復用ベッドに横たわるだけでもと、フラフラになりながら歩みを進める。
「――……っ……」
ガン、と。
硬い者同士がぶつかる音が響いた後に、フェルゼンの意識はそこで途絶えた。
Where did you go?
同時刻。
セクレト機関の休憩棟にて。
ジャックは記憶喪失となってしまった自身の従姉妹アルム・アルファードの様子を見に来ていた。
一度は彼女が『自分に記憶がないから』と距離を取ったが、流石にずっと距離を取るわけにもいかない。
そこでジャックはもう一度アルムと話し合おうと、部屋の鍵を開けて、室内に入って……。
「……!?」
誰もいない部屋。
あったのは、彼女のために用意されたテーブルやベッド。
テーブルの上に用意された食事と飲み物。
そして、1枚の手紙が残されていた。
「……手紙……?」
手紙を手に取り、読み進めたジャック。
その手紙はまさしくアルムが書いたものだと判別出来、以下のように内容が記されていた。
******
******
「……アルム」
手紙を読み終えたジャックはその手紙をくしゃりと握りしめ、彼女の名を呟く。
その名は自身の婚約者。そして、理由分からぬままに連れてこられた異世界の王女。
いくら悔やんだところで何が起こるわけでもない。
いくら悔やんだところで彼女が戻るわけでもない。
けれど、それならと彼は動き出す。
「ヴィル・アルミュールに向かえば、アルムのやるべきことがわかるんだな」
取り返すとか。
連れ戻すとか。
彼は、そういうのは一切考えていない。
『アルムのやるべきことがあるならそれを優先させる』。
それが、ジャック・レイン・アルファードという男。
アルム・レイン・アルファードの、生涯たった1人の伴侶。
これは、猟兵達の秘密の物語。
記録と記憶に残るだけの、小さな物語。
シークレット・テイル