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Meanwhile…
戦いと調査が行われている一方その頃。
セクレト機関の来客用個室でジャックとアルムが会話をしていた。
なんてことはない、アルムの記憶を取り戻すための日常会話。
一番親しい間柄のジャックと会話をすることで、多少は取り戻せるのではないかというのがヴォルフの考えだ。
とは言え、ジャックは何処から何処まで話したもんかと悩んだ。
アルムが『異世界のとある小国の王女』だってことを話すか。
アルムが『いつも窓を割って脱走する王女』だってことを話すか。
アルムが『大剣をぶん回して魔物と戦う王女』だってことを話すか。
そのどれもが今目の前にいる彼女とかけ離れているものだから、余計に語るのが難しい。
なので無難に、こちらの世界に来てからの話などを繰り返していた。
「……あの、ジャックさん」
「ん?」
そんな中でアルムが会話を止めて、何かを言いたそうにもじもじしていた。
何かを伝えておきたい。けど、その言葉が見つからない。
ちゃんと言わなきゃいけないといけないのに、なんて言ったらいいのかわからない。
「……えっと……」
言葉が見つからなくて、数分ほど。
しばらくアルムがもじもじしていると、ジャックはぽんぽんと頭を優しく撫でてあげた。
アルムが何を言いたいのかはよくわかっていない。
けれど、彼女のことだから『言っておきたい』という感情があるのはよくわかる。
そういった意味を込めて、いつものように、優しく頭を撫でた。
「大丈夫。いつだって待てるから、俺は」
「ジャックさん……」
――何年経とうと、俺はお前のそばにいる。
……なんて言葉を飲み込んで。
ジャックは再び、アルムと他愛のない話を続けた。
彼女の記憶を取り戻すために。

これは、猟兵達の秘密の物語。
記録と記憶に残るだけの、小さな物語。
シークレット・テイル
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