


Bad trends
「結構まずいですね、今の状況」
「あ、やっぱりぃ? っていうかマルーも動けたんだ」
「ああそっか、僕のことってまだ司令官システム側には知られてないですもんね」
「まー、なんとなくマルーは大丈夫だろうな~って思ってた」
ヴィル・アルミュールで救助作業を手伝っていたマリアネラ。
同じく人々の治療を続けていたマルクスの正体に対して驚くことなく、作業を続けていく。
マルクスが言うには、低減症状はおそらくミメーシス側の謀略。
人々が動けなくなったところに、肉体を持たない手足の存在が人々に入り込む可能性が高いそうだ。
そのことに『物知りだねぇ~』と笑うマリアネラに対し、マルクスは首を傾げた。
「……僕がどういう存在か気にならないんですか?」
自分は、ミメーシスという存在が成り上がったモノだ。
その存在が裏切る可能性を考えていないのか。
その存在が刃を向ける可能性を考えていないのか。
それをマリアネラに対して問いかけるように、一言だけマリアネラに聞いた。
だけどマリアネラは気にする様子がないままに、返答した。
マルクスの問いかけに対して、彼女はあっけらかんと。
「別にぃ。マルーはマルーなんだし、気にしなくていいと思うよ~」
たとえ、マルクスという『人間』がもともとは違う存在だったとしても。
たとえ、目の前にいるのが『ミメーシス』という侵略者の片割れなのだとしても。
幼い頃からマリアネラと付き合いがあったのは、
紛れもない『マルクス・ウル・トイフェル』ただ1人なのだと彼女は告げた。



Rescue everyone
ヴィル・バル方面には司令官システムからアードラーが出向く。
そして、彼の娘であるクレーエも。
クレーエはもともとアードラーの研究によってソール物質が作れない身体になっている。
故にソール低減症状が起こることなく、無事に活動できている。
そのおかげでアードラーと手分けしてヴィル・バルの人々を救っていたが……。
ふと、クレーエが気になることがあると言い出したのだ。
「気になること?」
「前に起こったソール利用ができない事件と、だいぶ違ってない? って思って」
クレーエがいうに、以前ヴィル・バルで起きた事件とかなり様相が違うという。
あのときはコントラ・ソールが使えなかった理由が『ソール物質がないから』だったが……。
それなら、何故その時にも低減症状が起きなかったのか? と。
「それにね、あのときはリンクシステムが動かなかったけど、今は動いてるんだよね」
「妙だな、大きく離れたら動かないはずだろう?」
「うん。そう設計されてるから、間違いなく大きな違いがあるはずなんだよ」
「ふむ……」
クレーエの言葉に、アードラーが考える。
前回と今回、一体何が違っているのか。
もし違いがあるとしたら、そのズレを戻すことは出来るのか。
戻せなかったとしても、策を講じることは出来るのか。
「クレーエ」
これから先、このヴィル・バルで何をやるか。
アードラーは淡々と『人を救出しながら調査をするぞ』と告げた。
「やっと、あたしがお父さんの助手みたいになれたね」
そんなクレーエは嬉しそうに呟く。
幼い頃の願いを、ようやく叶えることが出来たのだというように。




Explore the mystery
農業専門都市『ヴィル・キャスク』。
エルグランデの食糧事情を担う都市では、人々が倒れた後も機械が動き続ける。
その様子にジャックが少し変な感覚を受け取っている姿が見受けられていた。
「俺の世界では機械なんてなかったしな」
「じゃあ、今の僕もキミからしたら変な感じなのかな」
同じように作業を続けていたのは、司令官システムの1人アレンハインツ。
今回限りの機械の身体は普通の人間と変わりなく動いている。
その様子にジャックは少々苦笑いを見せていた。
「うん、まあ。人間の身体を作るってのは、神様がやることだからな」
「まあ、確かにそうだね。……目の前に神様、いるけど」
作業を続けていたアレンハインツはレティシエルに目を向ける。
自分の実の兄ではあるのだが、それと同時にレティシエルは箱庭世界の神。
なんとも不思議な感じだね、なんて笑いかけていた。
「ほらほら2人とも、次の場所空けるからそっちに運び入れてね~」
「腹立つ~~お前も運ぶの手伝えよ」
「僕はもう少し、やることがあるからね。今しかチャンスがないんだ」
「レイ兄さん、今しかチャンスがないって……?」
いったい何をする気なんだろう。
アレンハインツが不安そうな表情を浮かべたが、レティシエルは『大丈夫』と笑った。
もともとレティシエルは研究者。
だからこそ、己が持つ本質には抗えない。
『ソール物質とこの世界について調べる』。
ただそれだけなのだ。



Really a princess?
「よし、次エレロの街!」
「はーい!」
大都市を他のメンバーが引き受けてる間、アルムとエスクロの2人は小さな街や村を巡っていた。
細々とした街や村は大都市よりも人口は少ないが、それでも助けは必要だ。
とはいえ動けるメンバーが限られているため、街や村を巡るのは最低限となってしまう。
幸いにもベルディとアマベルも動けるため、彼らにも手伝ってもらっている。
彼らには司令官システムによる補助がないため、アルムとエスクロが出向いた場所に出向いてもらうだけだが。
「うわっ!?」
「うわーっ!?」
坑道の街エレロに2人がたどり着いたときには街の人々が地面に倒れ伏していた。
これは街に配備された治療用ロボットによるものであり、
『安全な場所』がエレロの街にないことからこのような処置になったそうだ。
坑道街と呼ばれる所以は、大量の鉱脈が存在することが由来。
故に地盤沈下も起こりやすく、いつ建物が壊れるかもわからない。
故に治療用ロボットは動けなくなった人々を屋内へ運び入れるのではなく、
屋外に寝かせることで救助を待ち続けていたのだ。
「くそっ。こんな時、《創造主《クリエイター》》が使えれば……」
今現在、コントラ・ソールは使用不可能。
故に万能の制作系コントラ・ソール《創造主《クリエイター》》すらも使えない。
安全な場所を作るという点において《創造主《クリエイター》》は素晴らしいのだが、
それが使えないとなると、安全な場所は用意すら不可能だ。
「じゃあ今から木材でも採取して作ります? あたし、木をへし折るのは得意です!」
コントラ・ソールが使えないなら、自力でなんとかすりゃいいじゃない!
そんな感じで言い放ったアルム。
ちなみに彼女は元の世界では王女だったこともあり、その発言にエスクロが目を丸くしていた。
「……あの、キミ王女だよね?」
「はい王女です!!」
「誰だよ王女に脳筋解決法教えたのさあ!!」
アルムの提案を却下して、せっせと街の人々の治療と安全確保を行うエスクロ。
その合間、別の村の方でベルディがくしゃみをしたのは……知る由もなく。

これは、猟兵達の秘密の物語。
記録と記憶に残るだけの、小さな物語。
シークレット・テイル