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夕暮れ.png
テオドール
立ち絵.png

What should I call you?

「ええと、テオドア、て呼べばいいのかな?」

「ああ、気にせんでええで。今まで通り呼んでもらっても」

「うーん。テオドール卿と僕が兄弟って信じられないなぁ……」

セクレト機関、テオドールオスカーの部屋。

アマベル・オル・トライドールが部屋にお邪魔していた。

本来ならばアマベルはレティシエルと共に行動しなければならないのだが、今は彼はいない。

オスカーと共に夕食の材料の買い出しに出向いてもらっているのだ。

その間、アマベルとテオドールの2人で色々と話をしていた。

この世界がアマベルの故郷であること。

テオドールの本当の名前のこと。

箱庭世界でのテオドールが『卿』と呼ばれるのに、こっちでは呼ばれないこと。

アマベルの所属しているギルドのあれこれ。

夕食が出来上がるまでの時間、たっぷりと情報交換をしておいた。

……といっても、世間話ばかりなので情報らしい情報はあまりないのだが。

「うーん! 僕がこの世界にいたっていうのが一番信じられないかな!」

「俺は兄貴がそない愉快な性格になってるのが信じられんわ」

2人揃って『信じられない』の声を上げる。

アマベルは自分が神様という立ち位置ではなかったことに。

テオドールは様変わりした兄の様子とその立ち振舞に。

箱庭研究の事故によって引き離された兄弟は、お互いを『兄弟』と認識するのに時間がかかった。

けれど話せば話すほど、お互いが『自分の兄/弟である』ということがわかりつつある。

それがなんだか嬉しくて、アマベルはテオドールに懐きつつあった。

「……でも、この話。向こうには持ってかないほうがいいかもねぇ」

ぽつりと、アマベルが小さく呟く。

それに対してテオドールは何も答えられず、ただ沈黙を貫いた。

アマベル・オル・トライドールとテオドール・フレッサー。

この2人の立場は、箱庭世界では大きく変わってしまう。

具体的に言えば。

アマベルは箱庭世界での異質な存在『闇の種族』で。

テオドールは闇の種族を忌み嫌うとある国の『貴族』。

その2人が兄弟だったと知られれば、世界では何が起きてしまうのか。

戦争か、迫害か、あるいは追放か。

「……まあ、俺は別に兄貴に会えたんなら、どうなったってええんやけどな」

そう呟いたテオドールの表情はなんだか嬉しそうで、寂しそうな表情をしていた。

これは、猟兵達の秘密の物語。​

​記録と記憶に残るだけの、小さな物語。

​シークレット・テイル

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