wanting to see you
「アルムの無事……ね。もちろん思っているさ」
小さなため息をついて、ジャックは少しだけ不安そうな表情を浮かべる。
記憶を失っている自身の婚約者アルム・アルファード。
彼女が今、どんな気持ちでいるのだろうかと。
記憶がないのだから、自分の世界での出来事なんて覚えていない。
むしろ、新たな気持ちでこの世界に降り立っているだろう。
それこそ、自分の立場を知ることもなく。
「自分が王族だってことも知らず、ただの一般人だって信じてるかもなぁ」
小さく笑ったジャック。
けれどその笑顔には、やっぱりどこか不安が紛れ込む。
無事なのはわかっていても、安全な場所にいるとわかっていても。
事件に足を踏み入れることはないとわかっていても。
少しでもいいから。
彼女は何も知らないで欲しいと願う、男の姿がそこにはあった。
「ところでさ、その研究書籍なんだけど」
エルグランデに駆けつけた日野・尚人はふと思い出す。
ジャックが守りに来たという研究書籍『ゲートと■■の関係性について』の中身は見たのか? と。
結論から言えば、彼は中身を見ていない。
中を見たとして、自分が理解できるとも思えないからと今まで放置していたそうだ。
だったら今見たらいいじゃないかと提案を上げられたジャック。
尚人に促されるまま、ルナールと秋月・那原がいる前で書籍を開いた。
「あれ、真っ白だ」
「なんで……?」
開かれた書籍には何も書かれていない。
真っ白なページだけが続いている。
ルナール曰く、これはある場所でなければ見ることの出来ないギミック。
執筆した本人の性格の悪さが良く出ている仕掛けだった。
「じゃあルナールさんは知ってるってことか?」
「さあ、知らないね。『ゲートと呪術の関係性について』の書籍なんて、私を追いやったものなんて」
「あ、今のタイトル? 掠れてて読めないところがわかったね~」
「何ッ!? くそ、意地悪しようと思ったのに!」
ルナールのうっかりにより判明した研究書籍のタイトル。
『呪術』――それは、コントラ・ソールという名称が定着しなかった頃の力の名称。
それがゲートとどう関係があるというのか。
まだまだ、謎は深まるばかり……。
これは、猟兵達の秘密の物語。
記録と記憶に残るだけの、小さな物語。
シークレット・テイル