Incident
「……ふう」
仕事を終えたエーミールが回復用ベッドで横になる。
柔らかさなど微塵もない、ただ硬いだけの板がエーミールの背を預かる。
システムによって身体をスキャンされ、異常なしの音声とともにエーミールは眠りにつこうとしていた。
「…………」
けれど眠りにつこうとしていた彼の頭の中は、何故かもやもやしている。
明日から数日は休暇を貰えているため、いつもなら喜びと嬉しさに包まれるはずなのに。
明日は何処へ行こうか、明日は何をしようかと悩むのが楽しいのに。
何故かそれすらも面倒になってしまうほどに、もやもやしている。
「……疲れてるのかな、私は……」
もう一度、ベッドの横にあるスクリーンパネルを操作するエーミール。
疲れ果てた身体のままに、兄の手伝いをしていたと考えてしまって一層落ち込む。
身体異常はないと先程スキャン診断を受けたが、もう少し詳しく検査してもらうことにした。
診察項目のパネルに指を伸ばし、時間を指定していく。
「ええと……血液検査……あとはMRIも受けたほうがいいのかなあ……」
「あ、でも、空いてないのか……。ナノマシンスキャンのほうがいいかな……」
「ナノマシンスキャン……アレ、嫌いなんだよなぁ……」
自分の休暇日程と診察可能日を示し合わせつつ、検査を決めていくエーミール。
彼は今もなお、ずっと、頭の中がもやもやし続けている。
それが始まったのはいつだったかは、もう今となっては思い出せない。
ただ、さほど長い期間ではなかったことはなんとなく、感覚が覚えている。
「……しばらく、休暇を貰わないとダメですかねぇ……」
はあ、とため息を付いて彼は再び回復用ベッドに横になる。
硬い質感が彼の身体を受け止める、ただそれだけ。
猟兵達が皆、情報を集めている間。
エーミール・アーベントロートはゆっくりと休む。
頭の中に残るモヤを振り払うために。
これは、猟兵達の秘密の物語。
記録と記憶に残るだけの、小さな物語。
シークレット・テイル