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月夜.png

headache

「……痛い」

真夜中にフェルゼンは目を覚ます。

それはいつも以上に自分を締め付けて、いつも以上に自分の意識を低下させる。

常備薬を片手に、水を飲んで……。

「……う……」

吐き出してしまった。

普段ならすんなりと飲み込めるはずの錠剤が喉を通ってくれない。

普段なら飲み込んだはずの水が戻ることなんて無いのに。

それでもフェルゼンは無理矢理、水を押し込んで錠剤を胃に流す。

この頭の痛みが収まるように、この苦しみを逃れるように。

「……マリィ、俺は……どうなっているんだ?」

小さく、誰かに向けて囁いた言葉。

それに対して帰ってくる返答は――フェルゼンの目の前に小さなスクリーンが現れた。

返答者の名前は……よく見えない。

だが、返答者はフェルゼンを『兄』と呼んでいた。

『兄さん』

『あなたは、』

紡がれようとした誰かの言葉が、突如として掻き消える。

それはフェルゼンが消したわけでもなければ、文を書いた誰かが消したわけでもない。

ただ、忽然とスクリーンが消えてなくなってしまう。

――誰かが妨害するかのように。

「……ふっ……」

小さく笑ったフェルゼンは窓の外を見やる。

ああ、今日は満月がとても綺麗だ。青白い光がよく見えている。

「……私も少し、弱くなりすぎているようだな……」

もう一度、無理矢理水を流し込んだフェルゼンは再び眠りにつく。

​今度はきちんと、身体が休まるように。

これは、猟兵達の秘密の物語。​

​記録と記憶に残るだけの、小さな物語。

​シークレット・テイル

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